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レンズのあれやこれや(1) ~~Elmar50mm(5cm)F3.5~~

ぼちぼちレンズヲタの領域も集める段階から、使い込む段階へ移行してきたと思う今日このごろ。使い込むとともにレンズそのものの情報もそれなりに揃い始めたので、不定期連載で手許にあるレンズのあれやこれやを採り上げてみることにした。第一回目はElmar50mmF3.5である。

私が最初に手にしたライカのレンズはMマウントのElmar5cmF3.5であった。いまどきのレンズからみると開放F値3.5はいかにも地味な印象だが、その描写にハマったのが運の尽きであった・・・苦笑。以下、長くなる上にかなり「ヲ」な話なので興味がない方はスルーしてくださいね。

手許にある3本のL39スクリューマウントのElmar50mmF3.5
Elmar50mm_1.jpg
左からElmar50mmF3.5(X)、Elmar50mmF3.5(Y)、Elmar5cmF3.5(Z)

後に続く文章を楽にするため( )内にアルファベットを付した。

50mmレンズのElmarは、歴史が長く販売本数も半端ではないため色んなヴァージョンがあり、販売がいったん中止された1960年頃まで製造されたものを大別するだけでも

(1)F3.5スクリューマウント
(2)F3.5スクリューマウント(Red Scale)
(3)F2.8スクリューマウント
(4)F3.5Mマウント
(5)F2.8Mマウント


となる。
上記写真のElmarたちは(1)である。L39スクリューマウントのバリエーションについて、ネット上を中心に情報収集を行った結果、ある程度わかったので書いてみることにした。ネット上の情報は真贋不明なものも多いが、よく目に付く話には極力触れることにした。もし内容に不備があれば連絡いただけると幸いです。

まず、手持ちのスクリューマウントのElmar3本でハッキリわかる違いを順にピックアップしてみる。

(a)表面仕上:XとYはニッケル鍍金、Zはクロム鍍金である。
(b)レンズの長さ:3本とも微妙に長さ(高さ)が違う。

(a)、(b)、いずれも一目瞭然である。(a)は写真ではわかりづらいが、現物を見ればすぐわかる。電解法によるクロム鍍金技術の開発は1937年ドイツで、ということのようだから、クロム鍍金の鏡胴は1937年前後以降の製造である可能性が高いだろう。(a)は直接写りに影響がない見てくれの違いだが、(b)は何の予備知識もなければピント合わせに不安を生じる違いである。これについては詳細を後述する。

次は上から眺めてわかる違いがある。並びは上の写真と同じにしてある。
Elmar50mm_2.jpg


(c)銘板の表記:XとYの焦点距離表記は「50mm」、Zは「5cm」である。
(d)絞り表記:XとYは大陸絞り、Zは国際絞りである。
(e)距離表記:写真ではわからないが、XとZはメートル(mtr)表記でYはフィート(feet)表記である。
(f)シリアルNo:ちょっと見辛いがXだけシリアルNoの表記がない。Zはかなり不鮮明だがシリアルNoらしきものが見え、それを意図的に削ったような感じがある。

(c)はすぐわかる。「cm」表記より「mm」表記の方が、古い玉である可能性が高い。(d)(e)もすぐわかる。(f)のシリアルNoは製造年の特定に最も簡便な目安で、表記がないXは不明だがYは1932年製造、Zはルーペで拡大しても数値の特定はできなかった。故意に削り取ったものだろう。

最後に裏面からインフィニティストッパーを見てみる。
Elmar50mm_3.jpg
(g)Xは「1」、Yが「4」、Zが「7」。それぞれ違うナンバーが刻印されている。


分解せずに素人判断でわかる違いはこんなところだろう。

と、ここで歴史のお勉強・・・。

1849年 Ernst Leitz社創立
1911年 Oskar Barnack(1879~1936)がLeitzへ入社
1912年 Max Berek(1886~1949)がLeitzへ入社
1914年 小型カメラ(Ur Leica)を試作
1920年 3群4枚Elmarタイプのレンズで特許を取得
1925年 レンズ固定式カメラ「ライカA型」発売(~1931年)
1926年 レンズ固定式カメラ「ライカB型」発売(~1930年)
1930年 レンズ交換式カメラ「ライカC型」発売(~1933年)、ライカスクリューマウントL39を規定
1931年 フランジバックを28.8mmに規定
1932年 レンズと連動する距離計内蔵カメラ「ライカDII型」発売(~1940年)
1933年 スローシャッターを備えたカメラ「ライカDIII型」発売(~1939年)
1935年 1/1,000秒を備えたカメラ「ライカ IIIa」(~1948年)

ざっくり拾っていくとライカ黎明期の歴史は上記のような流れである。

本稿はあくまでもElmar50mmF3.5に関するものなので端折って書くが、レンズ固定式カメラであるライカA型の搭載レンズには

・Anastigmat50mmF3.5(3群5枚)
・Elmax50mmF3.5(3群5枚)
・Elmar50mmF3.5(3群4枚、Görz社製ガラス使用)
・Elmar50mmF3.5(3群4枚、Schott社製ガラス使用)
・Hektor50mmF2.5(3群6枚)


の5種類があったとされている。

AnastigmatやElmaxなどはまずお目にかかることもないだろう。この2つは名称が違うだけで同じレンズであるとされ、Triplet型の変形でElmarとの違いは後玉が2枚ではなく3枚張り合わせという構造らしい。Anastigmatというのはサイデルの5収差(球面収差、コマ収差、非点収差、湾曲、歪曲)が補正されたレンズの総称みたいなもので他社製品にもこの名前を冠するものがあったため、Elmaxと命名されたようである。
真贋はわからないが、つい先日Elmax付のライカA型が出品されていた。売出価格2ミリオン超えだったがあんなものをネットのセリで買う人っているのだろうか・・・苦笑。
ElmaxとElmarのレンズ構成
elmax50f35.jpg
Elmax

elmar50f35.jpg
Elmar

ElmaxからElmarへの設計変更は後玉3枚張り合わせの手間が営業生産に向かなかったからだとされている。

問題はA型についていたElmarで、使用された光学ガラスが途中で変更になっている。これは経営危機に瀕したGörz社が1925年9月、LeitzのライバルであるCarl Zeiss等と利益共同体契約を締結したことにより光学ガラスが入手できなくなったからである。従ってA型のElmarには光学ガラスの違いから2種類があることになる。
(ガラス変更に伴いレンズ設計も見直したとどこかで見かけたので、GörzとSchottが混ざったElmarはないものと思われる。また、Görzガラスの在庫状況次第ではライカB型のElmarも2種類あるかもしれない。)

ネット上で新旧Elmarについて諸説見かけるが、レンズが写真を撮るための道具である以上、描写性能に違いがあるであろう「旧Elmar=Görzガラス・新Elmar=Schottガラス」という区分が最も適切な表記だと現時点では思っている。なお、後述するが、旧Elmarは実焦点距離がLeitz標準の51.6mmより少し短いことからShort Elmarとも呼ばれる。以下、ここでの記載は「旧Elmar・Short Elmarは旧Elmar、新ElmarはElmar」として話を進める。

年表からも明らかな通り、旧Elmarは本来レンズ固定式カメラにしか存在しないものである。ところが例外がある。ライカはレンズ交換式カメラの普及を進めるために固定式カメラのレンズを交換式に改造するサービスを行っていたことから交換式レンズにも旧Elmarが存在することになったのである。中にはElmaxが納まっているElmarもあるそうだが、そんなものにぶち当たったら即死だろう(笑)。
この改造の際に用いた鏡胴はカスタム鏡胴と呼ばれ、インフィニティストッパーの裏にある番号をみることである程度わかることになっている。番号は「0」~「7」まであり(時折セリで「9」も見かけるが・・・)、「0」「1」「3」がA型から改造されたElmarだと言われている。番号にもそれぞれ意味がある。

「0」:カスタム鏡胴。実焦点距離が50.5mm
「1」:カスタム鏡胴。実焦点距離が49.6mm
「3」:カスタム鏡胴。実焦点距離が48.6mm

ということらしい。それ以外の番号は以下の通り。

「4」:ニッケル鏡胴。ピントノブが全回転。無限遠ロックなし。DⅡ時代のElmar。最も手間のかかる作り方をされているらしい。実焦点距離は調査中。
「5」:ニッケル鏡胴。実焦点距離51.3mm。ピントノブが全回転。無限遠ロックあり。Ⅲ型時代のElmar。
「6」:ピントノブが半回転。鏡胴はクロムもニッケルもあり。最も多いとされる。実焦点距離は調査中。
「7」:殆どクローム鏡胴でピントノブ半回転。セリではこれもよく見かける。実焦点距離は調査中。

ライカの50mmレンズは実焦点距離を51.6mm狙いで今も製造されているらしく、初期のElmarのころは精度も出なかったからこういう細かい違いがあったらしい。

さて、ここで旧Elmarの製造期間は1925年~1926年とした上で、旧Elmarであることの外観条件を整理してみた。

・鏡胴はニッケル
・レンズの長さが標準的なElmarより短い
・フィルターネジのピッチが細かい
・ピントノブ裏の番号が「0」~「3」(カスタム鏡胴であること)

銘板の表記や絞りの違い、「mtr」と「feet」表示についてはあまり重要性がないのではないかと現時点では考えている。とはいえ、上記の条件も肝心の光学レンズに関わるものではないから、すべて満たしたからとて旧Elmarである保証はない。

因みに手持ちのElmarであるが・・・。

Xは一応上記の外観条件はすべてクリアしたので旧Elmar候補である。旧Elmarなら前玉が小さく球面カーブがややキツいのが特徴らしいが、どうも目視ではその辺がよくわからない。ライカA型に搭載されたSchottガラスのElmarである可能性もあるので、オーバーホールへ出したときの楽しみにとっておこう(笑)

8月二度目の満月、Blue Moon。よく健闘していると思う。
R0061137.jpg

少し絞ればさすがにビシっとする。
R0061159.jpg

ただ、玉の状態はクモリとキズが目立つのでこういう眠たい絵になりやすい。
R0061162.jpg
シャドー部の描写はさすがで潰れそうで潰れない。


Zはノンコートレンズっぽいので戦前製の数が多いごく一般的なElmarだと思う。ヘリコイドの動作が重い部分があるが玉の状態は悪くない。Hektor5cmF2.5と一緒に紹介したのがこのElmarである。

これもやはりBlue Moon。
R0061126.jpg
測光さえ気をつければ勝負できるよい玉である。


よくわからないのがYで、シリアルNoからもDⅡ型の時期と合致するしすんなり「4」のElmarといいたいところなのだが、ピントノブが半回転である点が引っ掛かる。前玉中央付近に少しキズが目立つが全体的な作りや操作感はこの玉が一番優れている。

こういう絵を見ると古き佳きレンズだなぁと思う。
R0060254.jpg


そうそう、忘れていた。旧Elmarを自力で分解して検証しているブログがあったのでリンクを張っておく。普段なかなか見ることのできないレンズの構造もよくわかる貴重なブログだ。

http://tele-pulse.cocolog-nifty.com/hibiomoukoto/2009/02/elmax-72ac.html

http://koten-n.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/2_dbf4.html

私のような素人でさえ見抜けるような「偽装玉」も多くセリに出ているので、変なものを高値で掴まされないよう調べ始めたことだが、調べている内に面白くなって随分長文になってしまった(笑)。手の込んだものになると後玉にわざわざ3枚張り合わせの別レンズを仕込んでElmaxに偽装しているものまであるらしいから、この手の骨董ネタはほどほどに付き合うのがよいだろう。
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[ 2012/09/04 12:45 ] Camera | TB(0) | CM(0)

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